【完】淡い雪 キミと僕と
その後も彼はえらくわたしに気を遣い、何を飲む?と訊いてくれたり、何か食べたい物ある?と何度も言ってくれた。
だけどわたしは、シャンパンも美味しい料理も、楽し気な雰囲気さえどこか居心地が悪く、早く帰りたいと思ってしまう始末だった。あの頃こういった社交の場がとても好きだったのに。
今は一刻も早く西城さんと雪の待つマンションに帰りたい。
「ねぇ、美麗ちゃん携帯交換しない?」
そう言って、佐久間さんは最新機種の携帯を取り出した。
あ、西城さんと同じ物。あいつ、最新機種の限定色だってよく自慢していた。この携帯で撮る雪の写真はアンタの古臭い機種よりも綺麗に撮れる、と。
って、わたしはさっきから何をあいつの事ばかり考えているのよ。今頃マンションで雪と遊びながら、繋がらない携帯を片手に苛々しているに違いない。
「あの、ごめんなさい…。あんまり携帯は人に教えないので」
「え~いいじゃん。俺今日は美麗ちゃんとお友達になりたくって来たのよ?
ね、お願い。一生のお願い」
可愛らしい笑顔を作って、両手を合わせる。母性本能をくすぐられるタイプだ。
前までのわたしだったら有無を言わせずに彼に携帯を教えていただろう。…けれど何故か今はそんな気になれない。もう港区でいらない人脈を拡げるのは勘弁なんだ。
友理奈に腕を引っ張られ、ぐいっと体を引き寄せられる。 途端に甘い香りが鼻をくすぐる。 そうして彼女はくすぐるように耳元で呟くのだ。