【完】淡い雪 キミと僕と
「……。」
「いいじゃない。潤くんだって西城さんと同じ位お金持ちだし、将来有望よ。そんな人があなたに本気になるかは別として」
泣くもんか。泣くな!泣くな!泣くな!
こんな事をいう女に、陰でわたしを馬鹿にしている男の為に泣いてなんかやるもんか。
けれども思いとは裏腹に握りしめた拳に汗は滲み、身体が熱くなっていく。それと同時に目頭も段々と熱くなっていって、目の前で不思議な顔をしている佐久間さんの顔がぼやけて見えた。
堪えろ、わたし。そう自分に言い聞かせていた時、だった。
バタン、と乱暴に個室の扉は開けられて、騒々しい空間は一斉に静まり返る。
誰もが振り返り、大きな音の先を見つめる。そこに立っていたのは、西城さんだった。何故か怒りに満ちた表情を浮かべ、眉と瞳をつり上げ、ルーム内を見回して
綺麗に磨かれたネイビー色のドレスシューズをコツンコツンと鳴らしながら、一直線にわたしの前に来て、両手を組み仁王立ちのまま睨みつける。
「何をしているッ!」
途端に腕を掴まれ、無理やり立たされたもんだから、ぐらりと体が揺れる。
それと共に堪えていた涙がぽろりと頬を伝っていくのを感じた。
シンと静まり返った空間で1番に口を開いたのは佐久間さんだった。
「何だよ、お前。突然入ってきて。彼女の手を離せ」
そう言って空いている左手を佐久間さんに引っ張られた。
バランスを崩し、転びそうになった時、だった。西城さんがわたしの腕を掴む佐久間さんの手を振り払い、自分の胸へと抱き寄せた。