【完】淡い雪 キミと僕と
11.大輝『何もしない。アンタの嫌がる事は…』

11.大輝『何もしない。アンタの嫌がる事は…』




掴んだ美麗の右手は、赤く染まり上がっていた。それに気づかないくらいには動転していた。

両手で顔を伏せ、泣きじゃくる彼女を前にして、自分の欲望と苛立ちをただただぶつけようとしていた。

真っ暗な部屋の中で、カーテンの隙間から僅かな月明かりがベッドを照らす。彼女の衣服を脱がしかけた手を引っ込めて、それを整え直す。

それでもなおもヒックヒックと嗚咽を漏らし、美麗は泣き続けたまんまだった。

そっと顔を覆う手に自分の手を重ねたら、隙間から目を真っ赤にした彼女が憎いものでも見るかのようにこちらを睨みつける。

「ごめん…そんなつもりじゃなかった…」

「どうせ馬鹿な女だと思ってるんでしょう?1回そういう関係になったから、簡単にヤレるとか思っちゃってるんでしょう?」

そんなつもりは毛頭なかった。

けれどこんな状況じゃあいくら言い訳を重ねても、無駄だろう。かき分けるように彼女の頬に両手をかざし、ぽろぽろと零れ落ちる涙を何度だって拭った。

違う。違う、美麗。そんなつもり全然なかった。そんな事微塵も思っちゃあいない。だから泣かないでくれ。俺は、アンタの泣き顔には弱いんだ。

それでもなおも、彼女は俺を睨みつけた。

「西城さんの好きなようにしたらいいじゃないの…。
どうせわたしなんて、アンタにとって便利な時に欲求を満たせる性欲処理の女のひとりに過ぎないんでしょう?」

「そんな事思ってない……」

それは心からの本音だった。

俺はもう、美麗をその辺にいる女とは同じには見れなかった。

それどころか理性を失う程には、混乱し、動揺していた。


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