【完】淡い雪 キミと僕と
口で謝るしか思いつかなかった。
だって君は、高級なタワーマンションも、ブランドのワンピースもアクセサリーも受け取ってくれやしないだろう?
物で釣る事でしか人を繋ぎとめる方法を知らない馬鹿な俺を笑ってくれ。 でも誰にだってそんな事をしないって事も分かってくれ。
特別だったから、大切だったから、どうしても手放したくなかったから、それしか方法が見当たらなかった。
だって俺は、井上晴人のような人間にはなれやしないから。
ん?
何故俺は井上晴人になりたい、と今思ってしまったんだ?あんな冴えない男なんかに。
それに特別だから、大切でどうしても手放したくないって…この感情は一体何だったというのだ。
わざわざ嫉妬のような大人げない感情をぶつけて、ルナまで急いで出向き、周りの眼も気にせずに彼女の腕を掴んで店を出た。
この気持ちは一体…。
「ねぇ…もう分かったから…。そろそろ離してくんない?」
ばつが悪そうに彼女が言う。
ああ、こっちだってごめんだね。何でアンタの貧相な体を抱きしめてやんないといけないんだ。
自分の想いとは裏腹に彼女を包み込む腕は自分の意志に反して動いてくれそうにもない。
どうして俺がアンタの機嫌を取って下手に出なくては行けないんだ。やっぱり頭の中で思っている事と真逆な行動を取ってしまっている。
だって、離したらどっかに行ってしまいそうで、とても怖い。
「ねぇってば…」
「嫌だ」
「嫌だって…。ちょっと…背中に何か当たってるんですけど…」
「うるさい。男の子だから仕方がない」
「男の’子’ってアンタいくつよ」
「年齢なんて関係ないね、これはどうしようもない生理現象なんだ。俺の意志ではない」