【完】淡い雪 キミと僕と
そう、これはただの生理現象でそれ以上の感情はない。俺の意志でも勿論無い。
男なんだから、女性を抱きしめていれば、自分の想いと反して反応してしまう事だってある。…それが全く色気のないアンタの前でだとしてもな。
だからアンタに欲情しているだとか、まさか’好きだ’なんて素敵な勘違いはよしてくれ。どれだけ頭がおめでたいんだ、アンタは。
そして俺は何故、自分にこんなに言い訳ばかりしているんだ。
なぁ、でもアンタを抱きしめているととても居心地が良くて、ついつい眠たくなってしまうよ。ゆっくりと瞼を閉じようとした、正にその瞬間だった。
「あぁー!」
大きな叫び声と同時に彼女は起き上がり、あろうことかベッドの上から俺の体を突き飛ばした。
華奢ではあるが、意外に力は強い。全く持って油断をしていた俺は、ベッドから転がるように床に背中を叩きつけられる。
「痛ぇ…何する…」
そんな事お構いなしと言った感じで、急いでリビングの明かりをつけたかと思えば、雪のお留守番時に使用しているゲージの中を確認し、そして家中走り回り、隅々から何かを探しているようだ。
キッチンの戸棚を開けたり、お風呂まで確認に行き、ベッドの下、しまいにはテーブルまでひっくり返す始末だ。
何をそんなに焦っている。
ゆっくりと起き上がり、さっき痛めたばかりの背中をさする。
すると彼女は目をつり上げこちらまでやってきて、俺のシャツの胸倉を掴んだ。そして耳がキーンとするような大きな声で叫ぶのだ。
「雪をどこにやったのよッ!」