【完】淡い雪 キミと僕と
思わず目眩がした。…何だ?まるで誘拐犯を見るような目を向けて。
それでもなおも美麗はシャツの胸倉を掴み、それを何度も揺らし目をつり上げながら「雪は?!」と叫ぶ。
突然ベッドから突き落とされ、背中を打ち、挙句に胸倉を掴まれ何度も揺さぶられ頭がクラクラする。
…なんつー、暴力女だ。
「ねぇ!雪は…ゆきぃ……」
おいおい…。
やっと泣き止んだかと思えばその場にへたり込み情けない声を上げ再び泣き出してしまった。アンタは一体俺の前で何度泣けば気が済むと言うのだ。
「落ち着け!雪は現在山岡家にいる」
「家ぃ…?」
「そうだ。アンタを迎えに行く前に美麗ママに預けてきたんだ…。だから心配するな…」
その言葉を聞いて心底安心したように胸を撫でおろした。
「早く迎えに行ってあげなくっちゃッ。きっと雪が寂しがっているに違いないわ。
西城さん、早く車を出してッ」
どうやらこの女にとって最も大切なのは雪らしい。いつからそんなに雪を大切にするようになった。姿を見せなきゃあ泣く程までに。連れてきたばかりの頃は「猫なんか大嫌い」と言っていた癖に。
まぁそれは、俺も同じだったかもしれんが。しかしあいつも中々薄情な奴で、山岡家に到着した瞬間俺の手から真っ先に離れ、美麗ママに媚びを売ったかと思えば、直ぐにソファーに横になっていた美麗パパのお腹に乗って甘えていた。
…全くけしからん。節操がない。けれど俺たちだって、雪くらいの素直さを持ち合わせていたのならば、もっと楽に生きれたのではないのか。
「案ずるな。雪なら一晩くらい山岡家でも大丈夫だろう。それに俺は今背中を強打して動けない」
そんな我儘を言う程には、美麗とふたりきりで居たかった。今日くらいは。しかしそんな俺に対し、彼女は変な顔をした。