【完】淡い雪 キミと僕と

「こんにちは、岸田さん」

「えぇ~千田ちゃん、僕の事覚えてくれてるの~?」

「勿論ですよー。岸田さんって目立つ人だから
1回見たら忘れられないですって」

確かに、若い癖に禿げ上がっているその頭は1回見たら忘れられそうにもないわ。

まぁわたしは名前なんか覚えちゃいないけど。〇〇営業社の岸田か。しかし汗だくで臭そうな男だ。

岸田の右手に持っているハンカチはびちゃびちゃに濡れていた。心の中で’キモッ’と悪態をつくわたしって非常に性格が悪い。

「千田ちゃんって仕事出来るよね」

「えぇ~?!全然ですってぇわたしなんてぇ…。
でも山岡さんみたいに人にそう言って貰えるのは光栄です!」



年齢はわたしより1つ下で、容姿は普通以下。つーかどちらかといえば冴えない。

真っ黒のおかっぱ頭で、少しだけふくよか。でも誰に対してもニコニコと笑顔を貫き通していて、見ている分には気持ちの良い存在である事は間違いないだろう。

容姿も並なら、出身大学も聞いた事のないような学校で、港区界隈にこの女を連れて行ったら皆にドン引きされてしまうだろう。

けれど、彼女は誰からも好かれて、上司の評価も高い。

どーせ作ってるんだろう?とも思った事が過去にはあったが、会社外の飲み会などでも彼女の人格は全く変わらない。

きっと子供や年寄り、動物なんかにも優しいのであろう。

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