【完】淡い雪 キミと僕と
雪の居ない。たったふたりきりの空間。さっきまで喧嘩をして互いに言い合いをしていたとは思えないほど、そこには柔らかい時間が流れて行った。
美麗は少し離れ、ベッドすれすれで横になり背中をこちらへ向けていた。…別に無理やり襲ったりなんかしねぇよ。女には困っちゃいねぇ。
けれど不思議な事もあるもんで、薄い花柄のパジャマを着ている彼女の背中を見つめそれに’触れたい’と感じている自分がいる。
抱きしめて、キスをして、あの日の夜のような事をしたい。と考えている自分がどこかにいた。そんな事をしてしまったらますます彼女から信頼されなくなってしまいそうだから、しないけれど。
性欲は余りない方だと思っていた。
それは俺にとって排泄行為と何ら変わらない物で、溜まったら出す程度の考えだった。
けれど彼女と同じベッドに寝て、柔らかさや匂いを感じてしまったら、不覚にも反応してしまっているのだ。自然の原理だ。自分にそう言い聞かせるけれど、納得は出来ていない。
そこにそれ以上の感情があるのは、明らかだったように思えるから。
「あのさ…寝た?」
「寝たよ。うっさい。明日早いんだから」
「寝てねぇじゃないかッ!」
「うるさいんだってばッ!こういう状況でぱたりと寝れる方がおかしいってもんよッ」
くるりとこちらを振り返って、悪態をつく。
暗くて表情はよく見えんが、彼女の身体をこちらへ引き寄せ、自分の腕の中へすっぽりと包み込む。 またシャンプーの香りが香った。
「何をするッ」
「こうしていても…いいか…?何もしない。アンタの嫌がる事は…」
もう無理やり押し倒したりして、信頼を失うのだけは嫌なんだ。 アンタの泣き顔は、見たくない。 それならば少しの我慢位…致し方無い。