【完】淡い雪 キミと僕と
「おはよ……」
朝一番の声はガラガラだった。大きな欠伸をして、また直ぐに目を閉じた。
「ちょっと、離してよ」
「んん~?」
「んん~?じゃないっての。今からわたしは仕事の準備をしなくちゃいけない。
それに雪を迎えに行かなきゃいけないじゃない」
「いいじゃないか、そんな事。とても眠たいんだ。雪はゆっくりと迎えに行ってやれ」
そう言って、絡まる腕の力を僅かながら強めた。
息をするのも苦しくなってしまう程の強い抱擁だ。それでも彼の腕の中、じたばた抵抗すると再び目を開けた。
「今…何時だ?」
「もう7時になるのよ。早く起きてってば。用意しなきゃいけないんだから、まだ眠たいと言うのならひとりで眠っていていいから
とにかく離して」
「もう7時だと?俺は7時間も眠っていたのか?」
自分でも驚いたよう、目を見開き声を上げた。
「ショートスリーパーは真っ赤な嘘、ね」
「いや、俺はまず女の家で寝たりはしないし、人と一緒には眠れないんだ。神経質なタイプだから…」
そういう発言は、自分が特別かもと思ってしまうから、止めて欲しいものなのよ。
驚きで腕の力が緩んだと同時に、彼の身体からすり抜けるようにベッドから立ち上がる。
するとさっきまで眠いと言っていた彼までもが、ゆっくりと状態を起こす。用意しておいた黒のスウェットは案外彼に似合っていた。
慌てて朝の準備をするわたしに対し、西城さんはゆっくりと時を過ごし、急いでいる素振りは全く見せない。ミネラルウォーターを飲みながら、携帯にジーっと目を落とす。
雪は自分が迎えに行くから、会社まで送って行くときかない彼の行為には甘んじる事にする。
丸1日雪に会えていないのは寂しい所だが、今日帰ったら沢山雪を抱きしめよう。あのもふもふに顔を埋めて、雪の匂いを思う存分堪能したい。