【完】淡い雪 キミと僕と
何だ、こいつ。変な薬でも飲まされたのではないだろうか。近頃の西城さんの様子は少しおかしい。…それを言ってしまえばわたしもわたしだが。
怪しすぎる。いかに自分の住んでいるタワーマンションが凄いのか自慢をしているようにも聞こえるが、それにしても必死なのだ。まるで何かに縋り付くよう、言葉を重ねていた。
素直に彼の住んでいるマンションに行ける事は嬉しい。それはタワーマンションの最上階に行けるのが嬉しいんじゃなくて、彼の暮らしてる生活を覗ける事が嬉しいのだ。
この人にだって、わたしにまだ見せていない顔は沢山ある。けれど、突然家に来ないか?と誘われるのが、疑問なのだ。
わたしもわたしで素直に尻尾でも振って喜べばいい物を、可愛げのない事しか言えないのは性分だ。仕方がない。
「週末つっても、今週は千田ちゃんと約束が入ってて。言ったでしょう?会社の後輩とノエールに行くって…」
「でもそれはお昼のランチの話だろう?ならば問題ない。夜に来ればいい。勿論雪も連れて来い。
雪はいっつもアンタのせまっ苦しいマンションに閉じ込められているから、俺のマンションに来たら嬉しくて走り回るに違いない。
あぁ、そうだ。うちには食器といった類の物はほぼ無いからネットで注文しておく!そうだな、俺はまたアンタのあの炒飯が食べたいぞ?」
「あのー…」
何を勝手に暴走し、わたしの予定を決めてしまっているのだろう。
と、いうかこれは既に決定事項なのだろうか。
人の予定を勝手に決めないで!そう文句のひとつでも言いたくもなるが、素直に嬉しい。
雪も連れて行っていいのも嬉しいし、あのお世辞にも成功とはいえなかった炒飯をまた食べたいと言ってくれるのも嬉しい。
嬉しいと人は自然にニヤケてしまうってのは本当の話だ。
どうしよう。今すぐこの場所から離れたい。だってこんなニヤケた顔をあなたに見せるのは、とても恥ずかしいから。