【完】淡い雪 キミと僕と
「な…彼氏なんて…」
ぽやーんとした笑顔を向けたまま、井上さんは顔色のひとつも変えなかった。
「中の人の顔は見れなかったけど」
その言葉を聞いて心底安心した。
「彼氏じゃないの。なんていうの、友達?いや、友達でもないか…」
「何それ、アハハ~。…それにしてもあの車、どっかで見た事があるんだよなぁ」
「え~?え~?ああいった黒い車はどこにでもあるから勘違いじゃないかなぁ~?」
「だよねッ。大体俺、あんな高級車乗ってる知り合いなんていないし」
「そうそうそう、アハハ~」
井上さんに釣られ、笑う。
何とかバレてはいないようだ。井上さんが天然ボケで良かった。西城さんだってアレはアレで天然の部類に入るのだろうけど、この人は筋金入りだ。
「なんか車の人と話してる時山岡さんすっごく幸せそうな顔して笑っていたから…彼氏かなぁと思っちゃった」
「え?!」
「ん?」
「わたしそんな幸せそうな顔をして笑っていた?」
「うん、すっごい幸せそうだったよぉ~。山岡さんってあんな風に気が抜けたような笑い方するんだって少しびっくりしちゃった」
きっと物凄い間抜け面していたに違いない。
気を抜いちゃ駄目。こんなんじゃあ気持ちがバレバレだ。
まさか西城さんを好きになったなんて、井上さんに言える訳ない。もしかしたら琴子さんにまで話がいってしまうかもしれないし…。そして琴子さんから西城さんまで話が言ってしまったら、立ち直れない。
琴子さんが余計な事を言う女性にはとても見えないけれど。友理奈との一件があっての話だ。嘘でも虚言だとしても、陰でこそこそと悪口を言われ、笑われたらきっと立ち直れないだろう。