【完】淡い雪 キミと僕と
「はい、もしもし。えぇ、連絡が遅くなってごめんなさい。
父の仕事が忙しいようで中々都合がつかなくて…。
えぇ、えぇ、そうですね。僕の方からも父へ言っておきますので、また後程連絡をさせていただきます。
はい。菫さんもお仕事頑張って下さい」
余所行きの声。それはどこか不思議。
聞きたくなくても耳に入ってしまう彼の声。
’父’と言っていた。ならば仕事の話であればいい。
けれど西城さんと菫さんが直々に仕事の電話をする事があるのだろうか、あくまでも父親同士が仕事で繋がっている。
明らかにプライベートの電話であったのは間違いない筈なんだけど、仕事の話であってくれと願っていた。幾らそう願おうと、そしてそれが例え仕事の電話であったとしても、菫さんが西城さんの婚約者であるのは変わらない事実なのだけど。
ふーっと大きなため息を吐き、彼は携帯電話を再びテーブルの上に置いた。
相変わらず不機嫌そうな顔。さっきの声の主と同一人物とは思えない。笑顔を装い、さり気なく訊ねた。
「菫さんから電話?」
あくまでも、さり気なくだ。’何も気にしちゃいませんよ。’なんて演技までしちゃって下らない。
’菫さんから電話?’なんて白々しい。携帯の画面を見ていたから、通話の相手なんて初めから分かっていたくせに。
「ああ。面倒くさい…」
「面倒くさいってアンタの婚約者じゃない」
’婚約者’自分からその言葉を切り出したくせにいちいち傷ついて馬鹿みたいだ。