【完】淡い雪 キミと僕と
それについ先日までわたしは処女だったのだぞ。数日で妊娠してましたって言われても、それはそれで驚きでしかない。
それにしても本格的にお腹が痛くなってきた。その理由をわたしはもう分かっていた。この刺すような鈍いお腹の痛みは…
ゆっくりと戸棚に指をさし、薬…と小さく呟く。
「何を言っている!妊婦に薬は良くない!
救急車を呼ぼう。流れていってしまっては大変だ」
大真面目な顔をして、携帯を手に取る。
やっぱりこいつって馬鹿じゃないか。
「馬鹿。妊娠してる訳ないじゃない。いいから早く薬取ってよ」
妊娠しているのならば、それはそれで良かったかもしれない。
僅かな望みを、たった一夜の過ちに託すほど馬鹿ではないが、妊娠で彼を繋ぎ止める事が出来るかもしれないという期待は馬鹿げたものだ。
命を粗末に扱い過ぎだ。そんな軽い物ではない。
ただただこの重く鈍い痛みが月に1回訪れる生理の痛みだって事にはとっくに気が付いていたから、’生理だ’とお腹を抱え呟くと、彼は呆気に取られたかのようにぽかんと口を開け、慌てて戸棚を開けた。