【完】淡い雪 キミと僕と
「美麗……好きだ」
その言葉を理解するのに時間がかかった。
まるで体中の力が抜けていくような脱力感。
何度も頭の中でリピートされる彼の言葉。そして全く彼らしくなく、頬を少しだけ紅く染め、気まずそうに視線がきょろきょろと動く。全く持って西城さんらしくない態度。
それがどれだけの時間だったかは分からない。口をぽかんを開けて、ただただ言葉を理解しようとする自分は酷く滑稽だった事だろう。
喉ががらがらでやっと言えた言葉を口にすると、声は少しだけ掠れていた。
「あの……」
この期に及んで、まだ彼の言った言葉の意味を理解は出来なかった。その単純な一言を理解するのにこんなに時間が掛かってしまう程には思考回路はショートしていた。
「いいんだ。俺はアンタが井上晴人を好きだったのは十分知っている。
だから少しずつでいい。俺の事を好きになっていって欲しい。
少しでも望みがあるのならば、気持ちに応えて欲しい。」
彼にしては自信のなさそうな言葉である。
まるで顔色を伺うように、少しだけ申し訳なさそうな顔をするもんだから、やっとその言葉が本気であると理解出来た。
言いたい事は沢山あった。
けれど気の利いた言葉なんて思い浮かばなくて、ただただ戸惑うだけだ。けれど温かい気持ちが心いっぱいに広がって行って、目の前にいる彼の姿が霞んでいくのに気づいた。
涙の先の答えを拒否だと思ってしまったのだろうか。
西城さんは途端に焦りだして「困らせるつもりではなかったんだ…」とわたしの涙を長い指で何度もすくう。それでもとめどなく涙は溢れて、言葉が上手く出てこない。