【完】淡い雪 キミと僕と
「母乳に近い38度くらいに温めるんだって
低すぎると体温が低くなってしまうし、かといって熱すぎると飲めないばかりか口をやけどする可能性もあるらしい。
注意しろよ?」
はぁ?!
だから何を偉そうに。
言いたい事は沢山あったけれど、段ボールに入っている子猫は相変わらずこちらへ何かを訴えかけるように鳴き続ける。
そんなに鳴き続けて喉を傷めてしまうのではないかと心配になるほど、必死に鳴くのだ。
一応人間としての心くらいはある。小さな命を見殺しにするような真似は出来ない。
不服ながらも男の指示に従い、ミルクを温める。
「こんな小さきゃ、哺乳瓶はまだ無理だろ。
ほら、このスポイトで数滴ずつ垂らしていくんだって
あんまり一気に流し込むなよ?!肺炎を起こす可能性もあるらしいから」
だから何?!
人に指示をするくせに何一つ動こうとしないこの男。
仕方がなしに、ネットで猫のミルクの飲ませ方を検索して、見様見真似で子猫にミルクを与える。
途端に鳴き声は止まり、猫はスポイトに喰らいついてミルクを少しずつ飲み始めた。
手のひらに収まるほど小さな子猫の体から、じんわりとした温かさを感じる。
生きている。
こんなに小さいのに…こんなに弱々しいのに…ミルクに必死に喰らいつき、生きようとしている。
大嫌いな猫だけど、その姿は健気だ。
覗きこむように上からわたしがミルクをあげる様を見て「ほぉ…」と偉そうにしているこの男に比べれば、それは何倍も健気ではある。