【完】淡い雪 キミと僕と
お金だけで選ぶのならば、もっと扱いやすい男をチョイスするだろう。
何を好み、こんな男を…。と考えても無駄だ。わたしはこんな自分勝手で口も悪く、世界で1番苦手だった筈の男を好きになってしまったのだから。
マイナスから始まった恋なのだから、何があってもきっとわたしは彼が好きなのだろう。たとえ今よりすこーしだけ不細工になったとしても、今より10センチ背が低くとも、西城グループの跡取り息子でなくとも、きっと好きなまんまだ。
後の祭りとはこの事だ。
「ママたちをぬか喜びさせては、駄目」
「俺は一度言った言葉は守る男だ」
「とは言ったって……」
「ごちゃごちゃ煩い」
そう一蹴して、彼は最新機種の携帯をキッチンに残したまま、リビングへ向かう。
何故か鼻歌まで歌ってご機嫌そうにソファーに寝転び、雪とじゃれ合う。
「アンタもこっちに来いよ」
雪はいつもと変わらず西城さんのお腹に座り、幸せそうに目を細める。
彼も、少しだけ目を細めて、長い腕を片方だけこちらへ向ける。
全く、もう。ふたりで寝転んでも十分な広さの黒い皮のソファーは、彼の腕に引き寄せられると吸いつくように体に馴染んで居心地が良い。
わたしの髪を何度も撫でて、愛しそうに見つめる瞳はいつも以上に優しいのだ。西城さんのお腹の上に乗っている雪も、こちらを見つめ大きな瞳を輝かせて両手を伸ばし首を傾げる。
雪を潰さないようにそぉーっと彼の胸へ寄り添う。そうすると、唇をわたしの唇へ重ねる。
考える事は沢山あるように思える。
彼の家柄の事情やらを思えば、頭が痛い事は山ほどある。そうでなくても、問題は山積みだ。
けれど、今は素直にこの腕に甘え、甘美な夢を見るのも良い。
この先の事はこの先考えればいいのだ。今は彼がわたしを好きになってくれた奇跡のような出来事に、溺れていたい。