【完】淡い雪 キミと僕と

黒い皮の椅子の前には木造で出来た茶色の年季の入った大きな机。

その上にはパソコンのディスクと、数多くの書類が積み重なっていた。横に設置されている戸棚の上には真っ白の立派な胡蝶蘭が飾られる。

祖父はくるりと椅子を回し、こちらに顔を向けた。年齢を感じさせない気迫は、幼い頃感じたものと何ら変わりはない。眼鏡の奥の鋭い眼光は、小僧をビビらすには充分だろう。

無言のまま、座れと目で促す。

渋々父と向かい合うようにソファーに腰をかける、と途端に彼は口を開いた。

「篠崎くんから、連絡が入ったのだが」

「はぁ…」

「何でも菫さんとの縁談を断ったとか。菫さんから篠崎くんの方へ連絡が入ったみたいでね」

「えぇ、けれど縁談とはいっても…僕はそんな話寝耳に水でしたけど…?
確かにパーティーで篠崎社長から菫さんを紹介されて、1回だけ彼女とはお食事には行きましたけど。
これが縁談などとハッキリ告げられた訳でもありませんし…」

目の前に座る父は黙り込み、小難しそうに眉をひそめる。

それとは対称的で、祖父は椅子に背をかけこちらに威圧的な態度を取ってくる。

「そんなもの言葉にしなくとも大体は分かっているだろう。お前も大人だ」

「けれど僕は菫さんと結婚する気はありません。僕の結婚と、篠崎リゾートとの仕事も何も関係ない話だとは思いますが?
それとも篠崎リゾートの社長さんという方は、たかが娘さんとの縁談が上手くいかないからと言って契約を破断してしまうような小さな人物でしたか?」


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