【完】淡い雪 キミと僕と
「うわぁ、誰だろう。山岡さん見てくださいよッ!入り口の所!すっごくかっこいい人がいますよ」
千田ちゃんの言葉に視線を向ける。
そこには、余り背は高くないがお洒落にスーツを着こなす。
…お洒落だけれど、どこか奇抜でワインレッド色のよく目を引くスーツの中に、これまた鮮やかなネイビーのワイシャツ。ハットを片手に…
明らかに普通の営業マンではない。こんなスーツでうちの会社に出社したら上司に怒られるであろう。一言で言えば派手なのだ。
「ほんと…派手な人ね…」
「どこの会社の人ですかね」
しかしどこかで見た顔だわ…。
颯爽とこちらへ歩いてくる。風を切る度に彼のサラサラの茶色の髪が揺れる。
そしてどこか目立つぱっちりと大きな瞳。一直線に受付までやってきて、白い歯を見せ笑うと頬に笑窪が出来る。
そこで思い出したのだ。
「あッ」
「こんにちは、美麗ちゃん」
わたしの名を呼び人懐っこい笑顔を向けると、横にいた千田ちゃんにもぺこりと挨拶をした。
千田ちゃんは直ぐに笑顔を作り彼に挨拶をすると、わたしと彼を交互に見て不思議な顔をした。
佐久間潤…。ルナで会い、友理奈から紹介されたS.A.Kというファッションブランドを経営する一族の息子。
思わず椅子から転げ落ちそうになった。後ろに身を引いたら、背中が壁に激突した。鈍い痛みが体中を駆け巡り、思わず体を丸めその場で震える。
「山岡さんッ!大丈夫ですか?!」
「だ、だ、だ、大丈夫よ」
「美麗ちゃん、大丈夫…?」