【完】淡い雪 キミと僕と
「あの……ラインの返信はしておきますので、その話は後日ということで」
わたしが言うと、犬のように人懐っこい顔をして大きな目を輝かせた。
うわぁ、やっぱり可愛い。とてもタイプだわ…。
「ほんとにぃ~?してくれないと早瀬さんに言っちゃうよぉ?
これからもちょくちょく仕事でお伺いすると思うから」
「えぇ!絶対返しますので!」
「ありがとう!今度食事にでも行こうね!じゃあ、」
満足そうにそれだけ言い残すと、彼は会社内へ消えて行った。
ニヤニヤとした、千田ちゃんの顔が目に入る。
「もしかして、彼が山岡さんの彼氏ですか?S.A.Kの佐久間さんって社長の息子さんですよね?!
どっかで見た事がある顔だと思ってたら、あの人ってモデルもやってるんですよ?!さっすがぁ~」
「まさか…止めてよ。彼とはたまたま友人の飲み会で出会って…」
「でも山岡さんの事好きそうでしたけどね。やっぱり山岡さんは色々とレベルが違うなぁ~」
千田ちゃんは羨ましそうな声を出したけれど、わたしは困り果てていた。
昔のわたしであったのならば、こんなチャンスは逃すまいと躍起になっていた事だろう。S.A.Kは伸び盛りな会社だし、おばあさまは有名なデザイナー。
当の本人である佐久間さんは優しい雰囲気で、顔もタイプ。きっと一緒にいても嫌味のひとつも言う事なく優しい人なんだろう。チヤホヤしてくれたに違いない。
けれど…わたしはもう、あの意地悪で口の悪い男でなくちゃ駄目になっていた。だから恋という感情はとても厄介なのだ。