【完】淡い雪 キミと僕と
わたしが帰宅しても、西城さんは中々帰ろうとはしなかった。
それどころか、飯は?とか言い出す始末で、渋々コンビニで買ってきたおにぎりをひとつ分け与えたら、彼は大層不満そうな顔をして、ブツブツ文句を言いながらもそれを頬張った。
そして、子猫は彼のお腹の上が相当お気に入りらしく、飽きもせずにその場に滞在していた。ミルクをスポイトであげる様も手慣れた物であった。
大きくて、ごつごつした手。
手だけではない。体全体が引き締まっていて、この世にこんなに完璧な人もいるもんだ、と小憎たらしい男ながら思ってしまうわけだ。
西城さんは恵まれている。彼が思っている以上に何倍も。
けれどこの人はいつだって何か不満げでいて、ちっとも幸せそうには見えない。滅多に笑わない。無表情な時間の方がずっと多くて、こんな奴でもそれなりの事情つーもんがあるのだろうけど。
そんな彼が、無邪気なまるで子供のような笑顔をこちらへ向けた。正しくは、わたしに向けたわけではないのだが。
「なぁ、こいつってすげぇ可愛くない?」
その言葉は意外だった。
あの極悪非道の西城大輝の口から、この小汚くみすぼらしい猫が’可愛い’だなんて言葉が出るなんて。
「可愛い…?」
「おお、こいつ、仕事中も絶対に俺から離れないんだ。
しかもミルクあげたらみゃあみゃあ鳴いて大きな目で俺へペコペコ挨拶してくるんだよ!
まるでありがとうございますありがとうございます!って言ってるかのように」
まさか、猫だよ?と言いかけて止めた。だってその話をする時の彼はとても子供っぽくて、いっつも無表情で偉そうな態度の時より全然良いのだもの。
「俺、猫って大嫌いだったんだけど」
「いや、それは聞いてるし何度も何度も」
「でも、こいつの事は嫌いではないかも」