【完】淡い雪 キミと僕と
14.大輝『俺の愛を証明してやろう―』
14.大輝『俺の愛を証明してやろう―』
母が退院した。と聞いたのは父からだった。
まぁ元々入退院を繰り返していた人だ。退院したのはさっして珍しい話ではなかった。そんな話を父から聞くのは珍しかったが。
病院にお見舞いに行ったきり、会ってはいない。会いたいとも思わなかった。
「そうですか、それは良かったですね」
金曜日の午後。父の下で仕事の手伝いをしている時突然言われた。何と返答していいか迷った挙句取り合えず無難な言葉をかけておいた。
先日の祖父との一件は、父の口からは何も言われていない。
…俺には無関心。というか、昔から何を考えているか分からない飄々とした人ではあったけれど、母との事はてっきり政略結婚だとばかり勘違いしていた。
けれど愛し合っていた夫婦とは到底思えないが。この人が祖父の反対を押し切ってまで、誰かと結婚したいと思えるような熱い人にも見えなかった。
「たまには実家に帰って来なさい。顔を見せるだけでもいいのだから」
「えぇ…そうですね。時間が出来たら…」
椅子に座り、書類に目を落としたまま彼は続けた。
「夢かぐらは、恋人と一緒に行くのかい?」
夢かぐらの宿を手配してくれたのは、意外な事に父だった。
先日夢かぐらの支配人の言葉を思い出し、一度だけ彼に会いたくなった。それに美麗も北海道に行って見たいと言っていたし、それに父も母もふたりが愛した小さな温泉宿を見てみたい気持ちも心のどこかであった。
夢かぐらの話をすると、支配人に連絡を取ってくれて、12月の忙しい時期に最高の部屋を取ってくれたのも、夢かぐら支配人のはからいだった。