【完】淡い雪 キミと僕と
『仕事でトラブル発生。20時くらいまでかかりそう。
ご飯どうしよう?何か買って行こうか?』
美麗からメッセージを受信した。20時、か。再び腕時計にめを落とし返信をする。
『丁度今家に行こうと思っていた所だ。それならばどこか外で飯でも食おうか?まだ会社だから、20時近くに迎えに行くよ』
『雪が可哀想だから早く帰ってあげたい。』
どこまでも雪優先なのは、付き合ってから変わらない。こちらがヤキモチを妬いてしまう程、雪が可愛くて仕方がないのだから。
始め、旅行が不服だったのもどうせ雪を連れていけんからだろう。その雪は雪で誰にでも媚びるような猫だから、一泊程の山岡家滞在ならば寧ろ喜ぶに違いない。
結局離れたくないのは雪ではなく、美麗の方なのだ。
『じゃあ、何かデリバリーで買っていこう。何がいい?』
『太らなくてけれどがっつりとしていて、カロリーはないんだけど満足感のあるもの』
注文の多い料理店か…。そういった都合の良い物は生憎この世にない。
携帯を片手に会社のロビーまで行き、足を止める。珍しくロビーのソファーに祖父が座っているかと思えば、その目の前に若い女性が座っている。
後ずさりして、今来た道を戻ろうとした瞬間、だった。
その女性は立ち上がりこちらに向かい手を振る。仕方が無しに会釈し、祖父と彼女が座るソファーの前まで行く。
「おお、大輝。待っていたよ。呼び出したら、たった今帰る所だと聞いた」
満足そうに笑う祖父。その目の前には菫が居て、いつもと何ら変わらない笑顔をこちらへ向け「こんばんは」と言い小さく頭を下げた。