【完】淡い雪 キミと僕と
「こんばんは、ご無沙汰しております…」
「ごめんなさい。仕事で近くを通りかかったもので…。」
「いえ…」
「大輝座りなさい。せっかく菫さんがいらしてくれたと言うのだから。
ふたりで食事でも行ったらいい。
では私は失礼します。菫さん、大輝を頼みます」
何を勝手な事を、クソジジイが。
菫は満更でもない顔をして、立ち上がり祖父へお辞儀をした。
祖父がいなくなったソファーに仕方がなしに背を降ろす。一体何の用事だと言うのだ、わざわざ会社まで出向いて。
食事など、冗談ではない。俺はこれから美麗のリクエストしたカロリーのないご飯を探し、彼女を迎えに行かなくてはいけないというのに。
祖父も祖父だ。何が大輝を頼みます、だ。この縁談は破談にしたばかりと言った筈だが?一瞬祖父が菫を会社へ招いたのではないかと勘ぐる。あの人ならばやりかねない。
菫は笑顔を崩す事なく、背筋を真っ直ぐに伸ばし視線を合わせる。
気の強い女は嫌いじゃない。儚く見えても芯の強さが伺える。
したたかで計算高い女も悪くない。それは知恵があると言う事。
出会った時から美麗に似た雰囲気のある女性だとは、思っていた。けれど強い女だった。
あんないい加減な電話で全てを終わらせようとし、番号まで変えた男にわざわざ会いに来るなんて。
「大輝さんったら酷いの。電話番号まで変えちゃって。」
「えぇ、携帯を壊してしまいまして…」
「最後の電話でもわたしの話を聞きもしないで、一方的にこの話はなかった事になんて、そんなのってないですよ。
父がどれだけ大輝さんと食事に行けるのを楽しみにしていたか…わたしだってそうです。これからって時なのに、突然電話の1本で済まそうとするのなんて失礼ですよ。」