【完】淡い雪 キミと僕と
「それは申し訳ないと思っています。けれど、電話でも話したのですが…僕が菫さんとどうかなるという事はこれから先きっとありません…。
なので、気を持たせると言うか…僕に特別な気持ちがあるのならば、期待をさせる方が失礼だと思いました」
菫は、笑顔を決して崩さない。
怒りの言葉を口にしても、顔色ひとつ変えやしない。気が強いというか、なんというか…。どこかで自分に絶対的な自信があるのだから、こう毅然とした態度を取れるのだろう。
そういう所は美麗とは正反対だった。
あの女は気が強く可愛げのない事をベラベラと言うが、本当に傷ついたら直ぐ顔に出るし、涙腺は思ったより全然緩い。…まぁそういった人間味のある所も好きなのだが。
「ミュージカルは楽しくなかったですか?」
「楽しく…ない事もなかったです。」
「わたしの事は余り気に入りませんでしたか?」
「菫さんは素敵な女性だとは思います…。
けれど何度も言うようですが、僕は、きっとこれから菫さんと一緒にいても、菫さんを悲しませるだけだと思います。」
「それは、大輝さんがノエールに一緒にいたあの可愛らしい女性を好きだからですか?」
まだ笑顔は崩さない。怖い程、完璧な自分を装うのが上手な人だ。
思わずため息が漏れそうになる。この人は、何故俺に拘るというのだ。祖父や自分の父が勝手に決めた縁談相手だったからだろうか。
篠崎リゾートは大手企業だ。たとえ西城グループじゃなくとも、良い縁談は他にもあるはずだ。