【完】淡い雪 キミと僕と
「そうですね。」
「友人だと言っていたのに酷い人です…。」
「それは申し訳ないです…。僕自身、彼女は友人と言うか…そういった対象の人間ではないと思っていたんです。
彼女を好きだと気づいたのも、付き合い始めたのも最近の話です。けれど、今は彼女以外とは恋人同士になるという事も結婚という事も考えられません」
ハッキリとそう告げると、彼女は立ち上がった。なおも、毅然とした態度を取り続けた。
「そうですか。ハッキリと言ってくれて嬉しかったです。
わたしも子供ではありませんから、この一件で西城グループと篠崎リゾートの事業に支障をもたらすような事は望んでいません。
あくまでも結婚とビジネスは別の話ですから。
けれど、西城グループの一人息子ならば、自分の立場と言うのは痛い程分かっていると思います。わたしも、分かります。篠崎リゾートの一人娘ですから。
あなたの気持ちは、誰よりもわたしが分かっているつもりです。わたし達の結婚が家柄と切っても切り離せないと言う事も。
わたしはまだ、あなたを諦めるつもりはありません。今日はそれだけをお伝えしたく、会社まで伺いました。では、失礼します」
最後まで決して笑顔を崩すことなく、彼女は立ち上がり、深く頭を下げる。
それに比べ、俺はソファーに座り込み両手を組んだまま、暫くそこから動けなかった。
西城グループと俺の結婚。勝手にさせてくれ、と言いたいのは山々だったが…。
菫の言いたい事もほんの少しは理解出来る。そうやって幼い頃から育てられたんだから。