【完】淡い雪 キミと僕と

大きくごつごつとした手で子猫を抱く様は優しい。それを見つめる彼の眼差しも

絶対に港区にいるような女に向けるような笑みではない。そしてこの先わたしにも絶対に向けられないような、純真無垢な微笑みだ。

こんな顔もする人間だったのか。

と思うと同時に過去のわたしは西城さんの上辺しか見ていなかったのだなと改めて感じる。
中身を見る、なんてあの頃は考えもつかなかった。

「でもさ、こいつ汚いよね」

人差し指でちょんと頭触って、悪口を言ったつもりなのに、子猫はまるで’スキンシップだぁ~’との如く嬉しそうにこちらへ短い尻尾をピーンと立てて、ゴロゴロと喉を鳴らしながら指をくんくんと匂いを嗅ぐ。

前言撤回か。

この猫は表情がとても豊かだ。そして西城さんの言う通り、日本語にはなっていないが、言葉を喋っているようにも感じる。

なんというか…不思議な猫ね。

「汚いかぁ?そうかぁ?」

「うん、毛は真っ白だけど、口元と鼻のところ真っ黒じゃん。それって模様なのかな?」

子猫の鼻の先、そして口元に黒ずんだ模様のような物があった。

昨日の夜、それは取れるものなのか、何度もお湯を湿らせたタオルで拭いてみた物の、結局取れはしなかった。

「あぁ。確かに。何か鼻くそみてぇになってんなあー」

「アハハ、鼻くそって。
模様が鼻くそに見えるって可哀想じゃん」

思わず笑ってしまったら、西城さんは不思議な顔をしてこちらを見た。

不思議な顔というか、口を歪ませて、人をおちょくってんのかって感じなのだけども。


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