【完】淡い雪 キミと僕と
15.美麗『大好きって……もうッ!』
15.美麗『大好きって……もうッ!』
「ゆっぴーッ。ひさしぶりでちゅねぇ、もぉ大きくなっちゃってぇ」
翌日、雪の手術の為にかかりつけの動物病院へ連れて行くと、奥さんはでれでれした顔で雪を出迎えた。
’ゆっぴー’と言うのは、奥さんのつけた雪のあだ名らしい。
数週間一緒に暮らした身だ。情はいつまで経っても忘れられないものなのかもしれない。
雪も雪で奥さんにゴロゴロとすり寄っていく。そう、雪はそういった猫だ。
奥さんの事を覚えているかは定かではないが、誰にでも一発で懐く。奥さんどころか、旦那さんである獣医さんにもとても懐いていて、ここが病院だと理解していないようではしゃいでいる。
本来猫というものは動物病院を怖がるものだ。キャリーバックの中で震えて、中々出てこない猫も多いらしい。
「いやあ、雪ちゃんも大きくなりましたねぇ。小さく生まれ、大きく育つとは正にこの事ですね。
しかし毛並みの良い猫ちゃんになりましたねぇ~。顔立ちも端正でハンサムさんだねぇ、ねー雪ちゃん」
獣医も、奥さんも、雪を見つめる瞳は優しかった。そして、手術の主な説明をされ、大体6~7時間後に迎えに来てください、と告げられた。
雪はとても嬉しそうで、これから何をされるかは勿論分かっちゃいない。
わたし達が院内から出て行ったら不安がるかな、と思い外の窓から様子を見ていたら、全く寂しそうではなくって、寧ろ嬉しそに長い尻尾を縦にピーンと立てていた。
…なんて素直で…もしかしたら、あの子馬鹿なのかもしれないわ。
でも良いのよ。馬鹿な子程可愛いと言うのだから。