【完】淡い雪 キミと僕と
こいつ…、かなりのヤキモチ妬きなんだ。ばつの悪そうな顔をして、視線を斜めに落とし身体を抱き寄せる。
そして耳元へキスをして吐息混じりに言った。
「美麗は、俺の物だ…」
その甘さにも似た声色に、やっぱり敵わない。
琴子さんの前でもハッキリと’美麗は俺の物だ’と言ってくれるのも、嬉しいものなのよ?井上さんに在りもしない言いがかりをつけても、わたしを想っている事は十分に伝わる。
伝え方が不器用なだけなの。
抱きしめられた胸の中から、やっぱりバクバクと心臓の音が聴こえて、嬉しくなる。
彼の胸の中から顔を上げて、微笑み「雪を迎えに行かなくちゃ」と言ったらまたぶっきらぼうに「あぁ…」とだけ言った。
動物病院に迎えに行ったら雪はとっくに目覚めていて、けれど麻酔がまだ効いているのか少しだけボーっとしていて、目をトロンとさせる。
獣医にも、奥さんにも甘えた声を出して’ありがとうねー’と言っているようにも聴こえた。
お喋りな猫だわ。けれど誰からも愛される素直さを持っている。奥さんは名残惜しそうに「ゆっぴ、また来てね?」と言った。
病院に来ないように健康でいてくれる事が第一だが’またくるね’とでも言うようにミャーと鳴いて奥さんにすり寄った。
勿論麻酔が効いていた中の手術だから痛みは無かっただろう。けれど雪の大切な部分は糸で縫われていて、痛々しかった。雪もそれが気になるようで、自分の舌先で必死に舐めていた。
抜糸は1週間後だそうだ。獣医が言うには雄猫は自分で舐めて、ほぼほぼ抜糸の心配はないらしいが、一応傷口を見たいとの事で連れてきてと言われた。
わたしと、あの頃よりずっと大きくなった雪と、西城さん。
これから先もずっと一緒にいれると信じて疑わなかった。少しの不安を除いて。
けれど、不安というものは思えば思う程、的中してしまうもので。