【完】淡い雪 キミと僕と
最もな言葉にぐうの音も出ない。
しかし思っていた以上に強引な女だ。
けれど、菫さんと仕事とはいえ会食をすると言えば、美麗は良い顔はしないだろう…。
仕事だから仕方が無いわ、と言ってくれても陰で悶々とするのなんて目に見えている。
「それはそうですが…」
「大輝さんは、仕事に私情を挟む人ですか?わたしは違います。そんな気持ちで仕事はしていません。
あくまでもお互いのビジネスを円滑に進める為の提案です」
全くとんだ狐だ。
菫との会食を渋々OKし、取り合えず早く切り上げる事だけを考えた。
美麗にはいつも通り会社の人間との接待だと言っておく。余計な心配はかけたくない。
「では、後程」
「はい」
くるりと振り返った菫は、やっぱり花のような笑顔を浮かべこちらへ余裕の微笑みを返した。
「お弁当、彼女さんのですか?」
「えぇ…まぁ」
「素敵だと思います。見た目通り女の子らしい方なんですね。
けれど、わたしは……あなたが思っている以上あなたの仕事の役にも立つ女だと思います。
では、失礼します」
だからどうしたと言うのだ。
菫と別れ、美麗が朝持たせた弁当箱を開くと、美しいとはとても言えない、どこかごちゃごちゃとしたお弁当が姿を現した。
料理の苦手な美麗が、朝から一生懸命作ったのが目に見える。疲れが一気に吹っ飛んでいく気分になる。こんな気分にさせる女は、きっとどこを探してもいないだろう。