【完】淡い雪 キミと僕と
従業員の制服にも拘っていて、有名デザイナーに頼んだものらしい。菫は、芸術的センスもある女性らしい。
その日は、本当に仕事の話ばかりしていた。
彼女もまた、仕事の話を楽しそうに語り本当に仕事が好きで、自分のやっている事に誇りを持っているのは分かった。
近年、お嬢様育ちでここまでの女は中々いない。
それは感心してしまう程。真面目で実直な女。
婚約者として、何ひとつ文句などない女性だっただろう。俺は美麗と出会わなければ、この人とは上手くやれていたかもしれない。
けれど菫の話を聞きながらも、考えている事は別だった。
きっと美麗をこの店に連れて来たら、あの大きな瞳を輝かせて喜ぶに違いない。外観も、内装も、褒めて褒めて、そして可愛らしい料理に舌鼓を打ち、あの可愛らしい笑顔で笑うだろう。
いつだって、仕事の話をしていたって、思い浮かぶことは美麗の事ばかりで
だからこそ、今日嘘をつくべきではなかったのだ。
優しい嘘であったとて、嘘は嘘。
ハッキリと菫と仕事をする事になり、菫との会食だと言うべきだった。
この小さな嘘を、死ぬほど後悔する日が来るとはこの時は思いもしなかった。