【完】淡い雪 キミと僕と
佐久間さんとはあれから、数回やり取りをした。
その間も、仕事の関係でうちの会社に来訪する事は多々あった。
一緒に仕事をしている早瀬さんが「すかした嫌な野郎だ」と愚痴っていたのを思い出す。アレは一種の僻みだと思う。
そうですよね~。可愛らしい顔をしていて、社会人だけどファッション業界だからお洒落で奇抜な格好をしていて、S.A.Kという会社の息子。
そりゃーあの早瀬さんが僻まない訳はない。しかも同世代だ。
それに佐久間さんはお坊ちゃまだと言うのに、余りそういった匂いを感じさせないフランクな性格で、千田ちゃんも会うたびに「いい人ですよね~」と言っていた。
確かに…。
彼って裏表なんかないんじゃないかって言う程、人当りの良い人なのだ。まぁ…それが困る要因のひとつではあるのだが。
約束のランチ。
誘われたのはクリスマス数日前の話だった。
「千田ちゃん、わたし今日はランチは外で食べるわ」
「そうなんですか?珍しいですね。もしかして彼氏さんとー?」
いつも通りお弁当箱を持った千田ちゃんが、ニヤリと笑う。両手を振ってそれは強く否定した。
「ち、違……。ちょっと知り合いが近くに来ていて…ランチに誘われているだけなの…」
まさか、佐久間さんとランチに行くとは…言えない。
千田ちゃんには適当な言い訳をして、会社を出た。
佐久間さんは気を遣ってくれたのか、ランチの場所に指定したのは会社から歩いて数分のお店だった。
…会社から近いという事はそれだけ社内の人間と会ってしまうかもしれないというリスクもあるのだけれど…。
けれど彼はわざわざランチなのに個室も用意してくれた。