【完】淡い雪 キミと僕と
「今、大輝さんと一緒に仕事をしているんです。この間の夜もボヌールで大輝さんとお食事したばかりなんですよ。
彼もとてもこのお店を気に入ってくれたんです」
それだけ言い残し、菫さんはお店を出て行った。
…聞いていない。菫さんと仕事をしてる事も、夜に食事をした事も。
何それ、秘密にしてたって訳?隠してたって事?
佐久間さんがハラハラとした顔で何かを言っていたけれど、それは全く頭に入ってこなかった。
ただただ苛立っていた。
何で教えてくれなかったの?!陰でこそこそと会って…。どうして婚約者だった人と、一緒に仕事なんて…それしか考えられなかった。
『今日は一緒にランチ出来て楽しかったー。もっと美麗ちゃんの事好きになりそうッ
もしも西城さんと別れたら連絡ちょーだいね(半分本気)
菫とは知り合いみたいで、最後元気がなかったみたいだけど、大丈夫?
何かあったらいつでも駆けつけるからね~』
仕事が終わったら、佐久間さんからメッセージが届いていた。返信はしなかった。
憂鬱な気持ちのまま家に帰ったら、珍しく西城さんが先にうちに来ていて、雪とじゃれ合いながら遊んでいた。それでも、わたしの苛立ちは止まらなかった。
「美麗~…」
不機嫌なまま、ただいまも言わずに鞄をかける。
コートを脱いで、ため息がひとつ漏れる。彼は何事もなかったかのように後ろからわたしを抱きしめ、名を呼んだ。
今はそれがとても胸糞悪い。 思わず西城さんの腕を強く振りほどいた。