【完】淡い雪 キミと僕と
かなり強い力だと思った。振り返った西城さんはてっきり怒っていたかと思ったけれど、振り払われた右手を見つめ、ぼんやりとした顔をした。時たま見せる、小さな子供のような顔だ。
少しだけボーっと自分の右手を見ていたけれど、ハッと顔を上げて、こちらの顔色を伺う様に顔を覗き込んだ。
優しい、声色だったとは思う。
「どうした?何か仕事であったか?」
「別に…」
「別にって顔じゃあないだろう。どうしたそんなに怒って」
わたしの身体に触れようと差し出した右手を拒み、そのままキッチンへと向かう。
なおも、西城さんは後ろからついてきた。
乱暴に冷蔵庫を開き、中からミネラルウォーターを取り出し、コップに注ぐなり一気に飲み干した。
体中に一気に水分が巡る。そのせいか、今にも涙が零れ落ちそうだった。
「美麗、おい…マジでどうした」
「何でもないよ…」
「何でもないわけあるか。顔を見せろ。何故俺を無視する…」
心配するような、優しい声。
けれど心はぐちゃぐちゃだった。
どうして菫さんと仕事をしている事を教えてくれなかったの?
一緒にボヌールで食事した事も黙っていたの?
ねぇ、あの人はあなたの婚約者だった人よね。…どうしてわたしに何も言わずに、会ったりするのよ。
それはただの嫉妬だという事はもう分かっていた。そうなってしまう程、独占欲が強かったなんて、彼の事を全然言えないわ。