【完】淡い雪 キミと僕と
言葉足らずで、説明不足。
ひとしきりミルクを飲み終えた子猫は段ボールで丸まって眠り始めた。
そこでやっと、この男が話し始めたのだ。とんでもなく自己中で、ありえない程身勝手な話を。
「だから、アレだな。要するに
友人の犬を連れて行った動物病院でたまたま獣医に無理やり押し付けられる形になったわけだ。
で、俺は猫は元々嫌いなんだが、そいつは俺に貰われなかったらきっと誰にも貰われずに野垂れ死にするところだったわけだ。
どうやら事故で亡くなった母猫には育児放棄をされていたらしい。猫つーのは育たないと自分で判断した子猫の面倒は見なくなるそうだ。
全く無責任な話だ」
「いや、無責任なのはアンタも同じでしょうが……
というか、西城さん…あんた、まさか……」
嫌な予感程当たってしまうものだ。
要はわたしはこの男に押し付けられたのだ。こんな面倒な物を
何を考えてるなんて分かったもんじゃない。小さな小さな命を。
大嫌いだと言ったのに、苦手だとも何度も訴えたのに、願い空しく。
分かっていた。この男が傲慢で自己中で、そして独裁的な事くらい。出会った時から分かってはいた。
「おぉ、眠っている姿はまさに天使だな。…ちょっとみすぼらしいが」
わたしの家に勝手に来て、勝手に子猫を押し付けて行ったのは
西城大輝というこの世の中でわたしが最も苦手とする部類の男。
友人などではない。かといって恋人なはずもなく、彼の数いるセフレのひとりでも断じてない。
わたし達の関係は言ってしまえば、無関係。他人の中の顔見知り程度の存在。
わたしがこいつを苦手とするのであれば、こいつだってわたしがこの世で最も苦手な女性のひとりであるに違いないのだから。
それならば何故家を知っていて、土足で上がり込むような真似をするのかと言うと
それはそれで話が長くなる。
わたし達の出会いから話し、そしてどういってこういう関係に至ったかを説明するとなるとそれはとても複雑に絡み合った糸を解くほど面倒くさいのだ。