【完】淡い雪 キミと僕と
わたしには、彼の苦しみは測り切れない。
生まれながらにして大企業の社長令息という立場で生まれ、何一つ不自由のない生活を送ってきたからと言って、それが幸せだったとは限らない。
恵まれている人だと思った。彼を羨ましく思った日だって。けれど、西城さんにだって西城さんの苦しみがきっとあったのだと思う。
わたしは何も出来ない女だけど、せめて彼の安らぎになれるような人間になりたい。…ずっと側にいてあげたい。彼がそれを望むならば
車の中で彼の手に自分の手を重ねると、彼はぎゅっと強く握り返した。
「美麗、アンタが良ければだが、年明けに一度実家に来ないか?」
「えぇ…?!」
「祖父は…アレだが、父は彼女を一度連れてこいと言っているんだ。
母も…失礼な所はあるかもしれないが、そこは目を瞑って欲しい。最近は体調も良く、退院しているようだし」
突然の彼の言葉に驚いた。
おじい様はわたしを良くは思わない筈だ。彼の為に婚約者を用意する程だけど
けれど、彼の両親には会ってみたかった。そこいらの普通の一般家庭の娘が気に入られるかは、別として。
「そうね、是非。あなたが嫌じゃなかったら…わたしがあなたの両親に気に入られるとは思えないんだけど…」
「君は素敵な女性だ。なんて言っても俺が選んだ女だ。もう少し自分に自信を持て」
西城さんは何の気なしにそう言い切るものだから、わたしでもいいのかと思えてくるんだ。
ありがとうね、わたしを選んでくれて。言葉にするとくすぐったくて、照れくさい。だから彼が強く握りしめた手を握り返した。