【完】淡い雪 キミと僕と

その言葉に、祖父は眼鏡を片手で上げ、不機嫌そうな眼差しをこちらへ送る。

この男と似ていると言われる自分が気持ち悪い。今は本気でそう思う。人の気持ちなんてお構いなしなのだ。そんなのは、昔から理解っている。

そうでなければ、西城グループをここまで大きくは出来なかっただろう。極悪非道と呼ばれようと、彼の手腕は確かな物だ。

そして今彼は、自分の思い通りに動かない出来の悪い孫に失望している事だろう。…それは父へ向けられた侮蔑の感情と同じように。


「可愛らしいお嬢さんだ。前にも言ったが…大輝…お前がどんな女性と付き合おうと遊ぼうが、一向に構わん。
しかし、結婚となると話は別だ。 何の事もない、名も知らぬ零細企業の娘さんじゃないか。育ちも悪くはないだろう。良いお嬢様学校を卒業している。勤めている会社も一流だ。
だが、西城グループに相応しいかと言えば、違うだろう。お前は普通の人間とは違うのだ。結婚するのならばもっと相応しい女性がいるだろう。
菫さんの方がずっと良い。何をこんなどこにでもいるような女性に拘っているのか、全く理解に苦しむ」

「僕は彼女以外と結婚する気はありません」

その言葉に、更に祖父は目を丸くした。

小僧の戯言と思われてもいい。 西城グループなど知った事か。 俺はあなたの思い通りに動く駒でも、会社の玩具でも何でもない。

「全く何をそんなに熱くなっていると言うのだ。
結婚までの遊びならば一向に構わんと私は言っているのだ。
菫さんが気に食わんと言うのならば、もっと良い縁談はある。
ただ、この山岡美麗というお嬢さんは駄目だ。全く持って西城グループの役に立つとは思えん」



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