【完】淡い雪 キミと僕と
「もしも何かあったとしても俺から離れて行こうとするのは止めてくれ…」
祖父との会話を思い出していた。
’西城家に相応しくない’
そんな言葉を目の当たりにしたら、美麗が離れていきそうで怖かった。
いつか、俺に何も告げずに俺の前から消えていなくなりそうで…。そうなった時、自分がどうなってしまうかは分からない。
「どうしたの?突然……」
「美麗は俺が選んだ女だ。俺の前にこれから美麗以上の女は現れん。だから離れて行かないでくれ……」
「大輝…?」
くるりとこちらを振り向いた彼女の顔に不安げな表情が浮かんでいた。
色々な事を察知してしまうような女だ。そしていらん気遣いをする。アンタのする悲しい気遣いは、俺は嫌いだ。
辛い時こそ泣きそうな顔をして笑う、その顔も好きじゃない。
不意に彼女の香りが鼻を掠めた。頭から包み込むように抱きしめる。彼女の心臓の音が耳元で聴こえて、少しだけ安心した。
母親に抱かれると言うのは、こういった気持ちなのかもしれない。
「大丈夫だよ。わたしは絶対に大輝から離れて行ったりしないから。もう何があっても離れない。
例えば、わたしがあなたに相応しくないと世界中から言われても、もう落ち込んだりしないわ…」
何も話してはいないが、彼女は彼女なりに自分の置かれている立場を何となくは理解していたのではないかと思う。
弱い女だと思った。けれど、その言葉を聞いて、こいつは強くなったのだとも思った。 弱いのは、一体誰だったと言うのだろうか。