【完】淡い雪 キミと僕と
「わたしもう自分だけは自分を見捨てないって決めたの。自分の素直な気持ちを大切にするって決めた…。
だからあなたも自分が西城グループの跡取りであるという事だけに囚われるのはもう止めなさいよ。
あなたは西城グループの跡取りである前に西城大輝でしょう? だから好きに生きていいんだと思う。わたしだって、あなただって」
いつの間に、こんなに…。
体を少しだけ離して、美麗がこちらへ向ける眼差しは優しい物だった。
強き者の瞳だ。強さは優しさから生まれる。逆も然り。出会った頃よりもずっと強い女に、いつの間にかなっていた。
「わたしね、あなたに会う前は特別な人間になりたいって思ってたの。まさに西城大輝のような選ばれし人間に。
でも蓋を開けて見たらわたしは空っぽな人間だし、人より秀でているものもない。特別な人間にはなり得ない自分に落胆もしたわ…。
特別な人間になりたかったから港区でも遊んでみたって、自分が空っぽなら何の意味もなかったのにね…。
でもあなたがわたしを選んでくれたから、わたしは特別な人間じゃなくたって良いと思えたの。わたしはわたしで、誰かを幸せに出来る。あなたが教えてくれた事よ」
強い女は、こんなに気高い。
君がたとえ自分をどれだけ特別ではないと卑下したとしよう。
だが俺にとってはやはり特別で、代わりなどこの世にはない大切な人なのだ。
「やはり、もう1回…」
美麗を押し倒し、チュッと小さなキスを贈ると、彼女は口癖のように「もうッ」と呆れながらも俺を受け入れてくれるのだ。