【完】淡い雪 キミと僕と

次の日は、菫と打ち合わせが入っていた。

余りふたりきりにはならんようにはしているが、仕方がない事情の時は会社で会うようにした。プライベートで食事にはもう絶対に行かない。

「入り口の所は強い拘りがあって、やっぱりお客様が1番目につくところでしょう?だからここだけは手を抜きたくないんです」

「成る程。食器の類もイギリスから輸入するんですよね?」

「そうね、そこも予算は削れないわ…。
レジャーホテルに出店するお店であるのなら、お客さんは大切な想い出を作りにきていると思う。
だから心に残るようなお店を作りたいと思っているんです」

「そうですね。場所も、メインの方が良いかも…。今は違う店舗が入ってますが、こちらを空けて貰えるように僕から掛け合ってみますよ」

「さすが、大輝さん。有難いわ。
内装もグッと変えたいの。テーマパークに行った余韻が残るような、わくわくするお店にしたいわ」

菫は仕事に関して熱意のある女性だ。自分の頭の中に浮かんでいるイメージを明確な物にし、何ひとつ妥協はしない。

一介のお嬢様では、中々出来ぬ事だ。そういう所はとても尊敬しているし、素晴らしい女性だとも思っている。

打ち合わせは数時間にも及んだ。ホッと一息をつくように珈琲を出したら、彼女はさっきまでの仕事モードの真面目な顔から、ただの少女の顔に戻りつつあった。

「美味しいわ」

「普通の珈琲ですけどね」

「大輝さんったら、あれからお食事に誘ってもずっと断るんだもの」



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