【完】淡い雪 キミと僕と
両手に珈琲を持って少し拗ねた口ぶりで言う。
さっきまでとは大違いで、仕事を抜きにすればとても可愛らしいお嬢さんなのだ。
「申し訳ありません。仕事の話でしたらオフィスで幾らでも聞けるのですが、プライベートで食事に行くと彼女を悲しませるので」
「…美麗さんね、この間会ったわよ。わたしの幼馴染なんだけど、S.A.Kの社長の息子の佐久間潤と何やら親し気にランチしてましたけど」
佐久間潤。今でも名前を聞いただけで怒りがこみ上げてくる。
女みてぇな顔をして、人の女にちょっかい出すとは…。絶対に偶然どこかで会ったらぶん殴っておこう。
「えぇ、その話は聞いてます」
「あらそう、潤は偉く美麗さんの事をお気に入りみたいだけど?」
「とても趣味が良いと思います。でも僕のですけどね」
「ふふ、案外大輝さんって独占欲強いんだ?冷静に言ってるけれど、顔が怖いわ。
潤とは長い付き合いなのよ。だから何となく潤の好みの女の子は分かっているつもり。美麗さんってぴったりなんですもの、あいつの好みに」
「へぇ~、じゃあ菫さんも好きでしょうね」
「え?」
俺の言葉に、菫の大きな瞳が瞬いた。
両手で珈琲を持つ手が、忙しなく動く。 冷静な所ばかりだと思ったが、動揺するとこのような態度になるらしい。
「美麗と菫さんは似ているから」
「わたしと、美麗さんが?」