【完】淡い雪 キミと僕と
休憩室でお弁当を開くと、彩りも綺麗ではないし全く美味しそうではない冴えないお弁当が目に映る。
…もっと上手に作れたらいいのだけど。 今度お弁当の本を買おう。キャラ弁なんてのも良いかも。可愛らしいピックなども100均で買ってこよう。
彼は美味しいと言ってくれるけれど、もう少し料理の腕も上げたいし、華やかなお弁当を持たせたい。
ママは料理上手なのに何故娘のわたしはこんなに不器用なのだろう。
「あれ?山岡さん……」
社内の休憩スペースは、共有である。 大きくはないけれど、食堂も入っている。だから違う部署の人間に会う事もある。
珍しい。
うどんのお盆を抱えた井上さんが笑顔でこちらへやって来て、目の前の椅子に座る。
井上さんはいつもお弁当らしい。だから社内の食堂を利用するのは珍しい事なのだ。
「井上さん。お疲れ様です。
珍しいですね、社食でご飯を食べるなんて」
「山岡さんこそ、お弁当なんて珍しいでしょ?」
「最近は結構お弁当が多いの」
椅子に腰をおろした彼が、ジーっとこちらのお弁当を見る。…そして苦笑い。いや、言いたい事は分かるんだけど、言いたい事があるなら口に出してよ。
「わたし…料理が得意じゃないから」
「いやいやそういうつもりじゃないんだッ。
お、美味しそうなお弁当だね」
…絶対思ってないですよね?笑顔が引きつってるんだってば…。
井上さんは趣味が料理でとても上手な人だった。一度だけ彼の作ったお弁当を食べた事もある。味も良かったが、見た目も綺麗で食欲をそそるお弁当だった。