【完】淡い雪 キミと僕と
「実は今一緒に暮らしてるの…」
「ゲホッ、ゲホッ…」
うどんをすする井上さんが思いっきりむせた。
「だ、大丈夫?!」
ティッシュで口を覆った井上さんは再び向き直って、口を拡げ満面の笑みを向ける。
「びっくりしちゃった~。でも本当に良かったね!今度雪ちゃんに会いに遊びに行きたいけど…
西城さん俺が行ったら怒るかな…」
「あれは井上さんへ対する理不尽な妬み嫉みだから気にする事ないわよ。
琴子さんの事で酷く恨んでるんでしょうよ。けど、平気よ。彼が悪態をついてベラベラ喋る時はその人に好意がある時だから、心から井上さんが嫌いな訳じゃないの。
是非遊びに来てよ。琴子さんも一緒に。琴音ちゃんは……きっと怒るだろうけど」
井上さんの飼っている琴音猫は、わたしの事が大嫌いだ。あの猫にはわたしの本性が見抜かれていたに違いない。
気高く見える長毛種のあの猫。
ビー玉みたいな瞳を鋭く光らせて、井上さんに近づこうとしていたわたしへ予防線を張っていた。未だに井上さんと琴子さんにしか懐かないらしい。
猫とは本来そういう生き物なのだ。そう考えれば誰にでも尻尾を振り媚びを売る雪の方が異常なのだ。
けれどそんな天真爛漫な雪にわたしも、きっと西城さんも救われた事だろう。
井上さんと何てことない話をして、休憩が終わる10分前に席を立つ。
受付のロビーに戻ると、彼とランチを終えた千田ちゃんが既に戻っていた。わたしへ気づくと、慌ててこちらへ駆け寄っていた。