【完】淡い雪 キミと僕と
「山岡美麗さんですね」
70過ぎとは思えない。ハッキリとした口調でわたしへ問う。鋭い視線は、一点を集中して見つめていた。
「はい…」
「突然申し訳ありません。
私は、西城グループの会長。大輝の祖父です。
今日は美麗さんにお話があり、突然ですが会社まで伺いました。」
「そうですか…」
「ここでは何ですから、よろしかったら喫茶店にでも」
人を真っ直ぐと見つめる人だ。その視線に思わず動けなくなってしまう程。
何も言えずに成すがまま黒塗りの高級車に乗せられる羽目になる。
…西城さんの乗っている車よりずっと高級そうな車には、黒いスーツを着ている若き運転手が乗っている。
後部座席でわたしと彼のおじい様。無言のまま、静かなエンジン音を聴きながら流れゆく都会の夜景を見つめていた。
頭の中でドナドナが流れた。別に売られる訳でも怖い事がある訳でもないが、口がカラカラになる程には恐怖で震えていた。鞄を持つ両手が汗でびっしょりと濡れている。
数分車を走らせ、ホテルの前で停車される。
ここは、西城グループが経営するホテルのひとつだ。都内にあるシティホテル。その中に入っているお店のひとつに通されて、そこは個室だった。
「お腹は空いていないかい?」
優しい言葉だが、眼は笑っているようで笑ってはいない。
こんな状況でご飯が食べれるほど、図太い女ではない。