【完】淡い雪 キミと僕と
「いえ、食欲はないです…」
「では、何か飲み物を。私は珈琲を頼む」
「わたしも…同じものをお願いします…」
都内の一等地に構える立派なホテルだ。通された個室も大層な物で、高そうな装飾品が飾られる。特別な個室なのであろう。
ただでさえ気後れする身分であるのに、目の前にいるのは彼のおじい様で西城グループの会長だ。…そしてわたしを快くは思わない人物で間違いないだろう。
珈琲がふたつテーブルに並べられ、彼はそれを一口飲んだ後、さっそく本題を切り出した。
怖くて顔は上げられず、湯気の上がる珈琲カップの茶色く揺れる渦ばかりを見つめていた。
「さっそくですが、大輝とはお付き合いをしてもらっているようで」
「はい…」
「我儘な孫です。美麗さんには心労ばかりかけている事でしょう」
「いえ、そんな……」
怒りっぽくて迷惑ばかりかけられてます。なんて口が裂けても言えやしない。 怖くて顔も上げられぬ位なのだから。
「まぁ、といった世間話をする為にあなたに会いに来た訳ではありません。
知っての通り大輝は西城グループの跡取り息子です。…お付き合いする程度ならば私もそんな小うるさく言うつもりはありませんでした。
大輝も大人ですし。けれど結婚となればまた話は別です。
あいつはまだ自分の立場というものが理解っていないのかもしれませんが、これから西城グループを背負ってもらわなくてはいけないのです。
それだと言うのに、あいつときたら美麗さんと結婚を考えていると真剣な顔して言うものですから」