【完】淡い雪 キミと僕と
「それは美麗さんが大輝と結婚を考えているという事ですか?」
「そんな未来の事は分かりません。けれどわたしは結婚を考えない相手と付き合っている訳ではありません。
恋愛の延長線上に結婚があると思っていますから。あくまでも彼の人生についてです。誰にも決める権利はありません。勿論わたしにだって、そしてあなたにだってありません」
「思っているより、気が強いお嬢さんでいらっしゃるようで」
少しだけ頬が緩んだが、依然目は全く笑ってはいない。
「わたしは、彼が彼らしく生きる事を望んでいます。その為にわたしが必要であるのならば、わたしは彼から離れるつもりは…ありません…。
わたしにも彼が必要です。」
ふぅーっと長いため息が吐かれて、スーツのポケットから煙草が取り出される。
「失礼」と一言断りをいれて、重そうなジッポライターで煙草に火をつける。
くゆりと紫煙が天井を上がっていって、僅かにチョコレートのような甘い香りが室内を漂う。
それと同時に鞄の中から茶色い封筒を取り出した。ずしりと重みのありそうな分厚い封筒だった。
テーブルの上、わたしへ向かって差し出す。
「これは…?」
「不躾ながら、山岡美麗さんあなたの事は調べさせて頂きました。
西城グループの結婚話となると、それは普通のものとは少し違う訳で、あなたの経歴などを洗いざらい興信所に頼みました」
プライバシーというものはないのだろうか。失礼な男だ。というか余計なお世話だ。