【完】淡い雪 キミと僕と
「西城さんがお弁当とか笑っちゃう…」
「何を?アンタが買って来たキャラ弁の書籍は実に興味深い物があった…。
あの本だって素人の主婦が出した物だろう?そう考えれば専業主婦というのはとてもすごい物だと尊敬する部分もある。
だから美麗ママもとても素晴らしい人なのだ」
「アハ。何よそれ。アンタのお母さんだって専業主婦でしょ?」
「母は、家事がからっきし駄目だからな。なんていってもあの人もお嬢様育ちだから…」
「明日、会うの緊張しちゃう…」
その夜は余り眠れなかった。
緊張しちゃう、と言っていた美麗の方が先に安らかな寝息を立てていた。その横には雪がいて、彼女の胸に寄り添って気持ちよさそうに目を閉じている。
美麗自身が元気のない事も不安だったが、明日母に会うのは同じ位不安でもあった。勿論美麗に失礼を働かないかといった類の心配もある。
けれど、またあんな瞳で見つめられたらたまったもんじゃない。’あんたなんか産まなきゃ良かった’侮蔑の様な瞳で、苦しそうに見つめるあの目が…何よりも怖かった。
祖父に似ていると母は言った。そう考えれば、母が憎んでいるのは父ではなく祖父なのであろうか。幼き頃から、祖父は母には良い顔をしていなかった。その理由が今ならば理解る。
彼らが政略結婚ではなかったと聞いたから。きっと祖父は美麗が気に食わないように、母の事も気に食わないのだろう。
そしてあの家で母は、ずっと肩身の狭い想いをしてきたのかもしれない。
それならば自身の子を虐待するという愚行さえ、許せるような気もしなくはない。