【完】淡い雪 キミと僕と
翌日、美麗は実に早起きだった。
朝からゆっくりとお風呂に浸かり、念入りに化粧をして髪を緩く巻く。
シックな黒のワンピースは余り美麗らしくはなかったが、よく似合っていた。別に美麗であるのならばジーンズとセーターと言ったカジュアルな格好でも可愛らしくはあるのだが
両親ウケがなんちゃらかんちゃらと言っていた。
そして午前中からデパートに付き合わされて、クッキーの詰め合わせなんて手荷物まで買っていく始末。
んな物いらん、と言ったが、そういう訳にはいかないでしょう?と睨まれた。
実家までの車内で、美麗は偉く静かだった。と、いうかカチコチに緊張していた。俺自体も実家に帰るのは久しぶりなのだが
都内にある所謂金持ちばかり暮らす街。そこに古くからの西城の屋敷がある。ご近所でも評判の大きな家だ。しかも中々歴史を感じる木造で出来た門構え。
中はリフォームがしてあり近代的ではあるが、その門構えを見た瞬間美麗の大きな目は更に大きくなった。
「ドラマでしか見た事ない…こんな家…」
「そうか?別に普通だろう」
「普通じゃねぇよッ。お庭も、もんの凄く広いのね。
ねぇ、どうして敷地内にお家がふたつあるの?」
「あっちが母屋でこっちが離れだ」
「おもや?はなれ?」
母屋と離れと言ってもどちらも独立された立派な家だ。
祖母が生きていた頃は、祖父もこの屋敷に住んでいた。そして父と母は離れの方で暮らしていた。
祖父が出て行った後、俺がある程度の大きさになった時には、ひとりで離れの方で暮らしていた。良い思い出は余りないが…。
けれど父が不在の家で、ひとり母から軽蔑の眼差しを向けられながら生活するよりかは、独りでいる方がよっぽどマシだった。