【完】淡い雪 キミと僕と
朝方。

友理奈と別れて、そのままの足で美麗の家へ向かった。

駐車場くらいは完備しておいてくれよ。心の中でぼやきながら、近くにある有料パーキングへ車を駐車させた。


午前5時。

きっと美麗は眠っている。

あの趣味の悪いパジャマを着て眠っている。あいつはきっとロングスリーパーであろう。1日8時間は眠るような。

でも夜中にちょこちょこ起きて、結局は子猫にミルクを与えている。それは愛情の持った家庭で育ってきて、本当の愛情が美麗の心の中にあるから出来る事なのだ。


音を立てずかちゃりと鍵を回したら、シーンとした室内に冷房機の回っている音だけが静かに響いていた。

自宅に帰ってきたら全部の電気をつけるのが癖なのだが、美麗が’光熱費がァー!’と叫ぶので、玄関の明かりだけを灯した。



1Kの部屋の中に、シングルのベッドがある。

これまた暖色系の花柄で、絶対に眠りたくない趣味の悪いベッドシーツとカバーだった。

スースーと美麗の寝息が聴こえてくる。彼女はベッドの端で、小さく丸まりまるで母親のお腹の中にいる胎児のような恰好で眠っていた。

どうしてそんなに小さくなって眠っているのか、答えは明白だった。

ベッドの真ん中に、子猫の寝床にしている汚い段ボールが置いてあったからだ。そしてミルクをあげる小さなスポイトがベッドに投げ出されている。



最も苦手なタイプの女ではあったが
この女の本性は、きっと優しい。


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