【完】淡い雪 キミと僕と
20.美麗『淡い雪 私と大輝と』
20.美麗『淡い雪 私と大輝と』
満開の桜だ。
思わず足を止めて、グリーンベルトを覆う並木道を意味もなく歩いた。
スーパーの袋をぶら下げて、心地よい風が着ていたカーディガンの中をすり抜けていく。
もうすっかりと春だ。薄紅色の花びらがゆっくりと舞い落ちていく。一緒に行った北海道旅行を思い出していた。
雪と桜は果たして同じスピードで落ちていくのだろうか…?いつか聞いた話、あれは本当なのだろうか。
思い出そうとしてみても記憶はおぼろげで、雪の降り落ちるスピードさえ思い出せない。
携帯を上に傾けて、ぱしゃりと写メを撮るとそれを彼へ送りつける。
返信は直ぐに着た。
『同じ日本とは思えないな』
添え付けられていた写真の中には、まだ雪が残る北海道の景色が写し出されていた。
本当に同じ日本とは思えないわ。
『夜には帰る』
そう一言添えられたラインを見つめ、柔らかく微笑む。
3月27日。わたしの誕生日前日に彼が帰って来る。
この1か月の彼と来たら、思い出しただけで笑えてくる。
送られてきた写真の中には夢かぐらのスーツを着た彼の無表情な顔。
毎日のように電話で文句を言っていた。
毎日足腰が痛い。お客さんの荷物を運んで館内を案内して、作り笑いばかりで疲れる。フロントはとても大変だ。アンタを尊敬する、とも。