【完】淡い雪 キミと僕と

フロントだけではない。飲料の方にも仕事に行っていたらしく、生ビールが上手くつげなくて社員に怒られる、だとか、料理の説明をする時にどうしても噛んでしまうと愚痴っていた。

当然だが、ホテル業界には施設管理といった仕事もあり、要するに宿泊するお客様のお部屋の掃除をしたり、布団を敷いたり、主にその仕事を担っているのはパートのおばちゃん連中らしく、呼び捨てにされ毎日叱られているらしい。

けれど毎日繰り返される愚痴の中、彼はとても楽しそうでもあった。

賄い料理はとても美味しいらしく、仕事終わりの温泉も最高らしい。

スタッフの人も皆やる気があり、とても活気のある職場だと褒めていた。勉強になる事が沢山ある、とも。

1番下っ端で働く事が勿論なかった人だから、大変だった事は沢山あったとは思う。けれど毎日楽しそうに文句を言っている彼を見ていると、とても安心したものだわ。



彼が彼らしく生きているのであれば、わたしはどんな仕事をしていても構わない。

たとえ西城グループの社長令息じゃなかったとしても、笑ってられる場所があるのならばそれで良い。

あなたの痛みはあなたの痛みで、全てを分かつ事は出来ないだろう。だから隣で笑って支えてあげられたら良い。




家に帰ると、雪がお出迎えしてくれた。「ミャー」と鳴きながら西城さんを毎日探しているようにも、見えた。

誰でも良い八方美人の猫かと思いきや、雪は余りわたしのお腹の上では寝ない。寝心地が悪いのだろうか。それとも西城さんやパパのような男性の方が好きなのか。…まさかホ…モ?

代わりに毎日わたしの横で寄り添うように隣にいてくれる。




< 598 / 614 >

この作品をシェア

pagetop